裏庭

宝塚。舞台いろいろ。

雪組『ファントム』第2幕の感想文。※ネタバレ有。

 

眠るクリスティーヌに自作の子守唄を歌うエリック。望海エリックの子守唄とか贅沢にも程がある・・・有難すぎて眠れないわ・・・。

イツ着替えたのどうやって着替えたの誰が着替えさせたの問題は少女従者ちゃんたちの存在により解決済みです。

クリスティーヌを軽々と抱きかかえる諏訪従者くん。頼もしい。力仕事関係は彼の役割と推測。

とても丁寧に寝床を整え、クリスティーヌの眠りを妨げないよう、静かに、そして恭しくクリスティーヌをベッドへ運ぶ従者たち。自分たちとキャリエール以外の人間がこの場所へ来たのはおそらくクリスティーヌが初めてだろう。

 

眠るクリスティーヌにおそるおそる近づいて、そ、と小鳥が花を啄むような口吻けをするエリック。はじめてのちゅう。ここの望海エリック、日毎にリアクションが違う。思わず唇に触れてしまったことに慄き、自分が今してしまったことに戸惑いながら手を震わせたり、ちゅーしちゃった・・・!みたいにニヤニヤ・・・にこにこしながらもうぜったい顔洗わないんだみたいにうっきうきしたり(これにはさすがにちょっと退いたぞ)・・・、なんかちょっと、のぞいちゃってごめんね的な気持ちになってしまう。そしてもうひとり、その様子をのぞいている人がいた。そりゃはじめてのちゅうを親にみられたらエリックちゃんも激おこですわ。音もなく部屋へ入って来て黙ったまま突っ立てるキャリエールに岡田あ~みん@お父さんは心配症 みを感じてしまいシリアスな場面なのにどうにも緊張感がないと云うか気まずい気持ちになる。

自分は何のために生まれてきたのか解らなかったけれど、僕が命を得たのはクリスティーヌに出逢うためだった、僕に必要なのは彼女だけと激昂するエリックの言葉にキャリエールは何を思ったのだろう。少しの寂しい気持ちを抱きながらも息子が自分の「生きがい」を見つけたことを喜ぶだろうか。普通の親ならそうかもしれない。でも、キャリエールにとってはエリックだけが「生きがい」であり、親として息子のその感情を堂々と応援することの出来ない立場故に、自分の存在を拒絶され、エリックと自分をつなぐものが何もなくなってしまったような寂しさと、これもお前の罪であると胸に鉄杭を打ち込まれたかのようなその背中に、とてつもない哀しみを感じてしまい、エリックちゃんちょっとそこに座りなさいッ、て説教したい気持ちになった。

そしてもうひとり。そんなエリックを見つめる痛々しい瞳があった。沙月従者。愛おしさも苦しみも憎しみも寂しさもすべてが混ざりあい混沌の果てに透きとおるように虚無となった美しい彼女の想いは時折、ひとすじの涙となって瞳からこぼれた。その涙を見るたびに、エリックちゃんちょっとソコに(以下略)

クリスティーヌはエリックと従者たちにとって異なる存在であり、そして闇に射した一条の光。従者たちが眠るクリスティーヌへと救いを求めるように手をのばす。それはエリックの心を体現しているようでもあり、また、彼等自身がクリスティーヌに母なるもの、失ったものを求めているかのようでもある。母さん・・・!違う、その人は母親ではないんだよ!でも、でも・・・!そんな会話のような振付けに従者たちの奥深くに閉じこめた物語の片鱗を感じた。凰華従者くんの、甘えていた母の手をもぎ取られた幼子のような顔が、いつか不安でいっぱいになって泣きだしてしまいそうで、目がはなせなくなる。キャリエールが解任されたと知ったときも、そんなに動揺しちゃう?!てくらい凰華従者くんの感情は豊かで、一挙一動にツイ目がいってしまう。

沙月従者はクリスティーヌより年上の雰囲気を持っているけれど、クリスティーヌに対して複雑な感情が生まれながらも、彼女を見ると子供のように求めてしまうそのあらがいがたい感情に、求めることが許されるのならすべてを投げ出してしまいたい、そんな狂おしさがある。

ここ、なにげに、凰華従者と懸従者。諏訪従者と眞ノ宮従者でペアになっているんだよね。沙月従者と笙乃従者は対になっていて、そうか・・・公式はこう云う組合わせなのか・・・、把握。私は沙月従者と笙乃従者カプ推しです。

 

沙月従者はエリック派で笙乃従者はキャリエール派だと思っています。沙月従者は出来るならキャリエールになりたいと思っている。笙乃従者にとってキャリエールは自分に父親と云う存在がいたならこんな人なのだろうと云う存在。まったくの捏造であり、この話をすると長くなるのでやめます。

 

ここ、上手で望海エリックさんがめっさヒーロー気取りで熱唱しているのだけれど、どうしても従者ちゃんたちが気になって気になって気になって・・・、オペラの動きが挙動不審この上ないです。どっちも観たいんです。でも、BDには従者たちはきっとあまり映っていないと思うから・・・。

ひとしきり歌ったあと、ちょっと休憩しよ、てエリックちゃんが部屋から出ていったあと、何喰わぬ顔で戻ってくるキャリエールさん。エリックの行動パターンけっこう把握してますね。親子げんかも慣れっこてことなのかな。

 

起きぬけのクリスティーヌにめちゃくちゃ重い告白をするキャリエールさん。目が覚めたら知らない場所にいていきなり重すぎる告白を聴かされたのに動じないクリスティーヌも大物だと思うけど、キャリエールさんもたいがいだと思う。

「私はあの方の目をみました、声を聴きました、あの方の心のなかには思いやりが宿っています!」「もちろんだとも!」(そんなこと百も承知じゃ知ったふうな口をきくなこのぽっと出の小娘が!)カッコ内は私がキャリエールだったらこう思う的な。その後の展開を知っているからここのクリスティーヌのセリフわりとイラッとクるよね。笑。

エリックの過去が、物語のページをめくるように舞台の上で語られる。朝月ベラドーヴァのことを語るキャリエールは、18の青年であった頃と何一つ変わることなくベラドーヴァを愛していた。過去のことを語るのではない、いまなお生きつづけている想いを語るようなキャリエールの愛は無責任なまでに無垢であった。

結婚していたのにそれを隠して不倫をつづけた結果、子供が出来てしまいはじめて実は結婚していたことを相手に告げ、なおかつカトリックだから離婚も再婚も出来ないとかほざく最低のクズ。ひらたくいうとそれがキャリエール。18歳で愛のない結婚を強いられていたことには同情できるけれど、それでもやったことは事実で最悪。諸悪の根元はキャリエールである。今まではそう、思っていた。でも、彩風さんのキャリエールを観たら、どうしても、キャリエールを憎めない・・・。

彩風キャリエールは、エリックが生まれたあの時から、もうずっと、血を流しつづけていた。身体を貫き肉を裂く痛みは彩風キャリエールの肉体を絶えず苛み、灼けた鉄杭がその背中から胸を貫いている。それは比喩的なものではなく物理。ビストロで皆と談笑しているときも、夜眠るときも、キャリエールの傍らにはつねに鬼がいて、彼の罪を囁きつづけ、その身に爪をたてている。未来永劫、死して後もつづく罰を、キャリエールは受けている。そう、感じてしまい、しまい・・・罪を憎んで人を憎まん・・・。その罪がきえることはないけれど、彼は罰を受けている、罪を受けとめ、今も、そしてこれからも、罰を受けつづけてゆく。そんな彼を、これ以上責めることなどできようか・・・。みたいな気持ちにさせてしまうのです、彩風キャリエールは。だっていつも苦しそうなんだもの。ずっと自分を責めているんだもの。あの八の字眉毛か、あの八の字眉毛がいかんのか。

こんな気持ちでエリックストーリーを観たのは、はじめてです。誰が悪いのか、誰のせいなのか、そのこたえはなくて、この気持ちはどこへゆけばいいのか、もうずっと迷子になっている。

彩風キャリエールは悪くない・・・悪いのは・・・、強いて云えば、永久輝くんなのでは・・・?不倫したのも嘘ついていたのも、永久輝キャリエールだよね。(酷い!)

 

「ぽっぷあっぷたいむ」で朝月さんへの久城さんの問い、「何であのとき(キャリエールに、どうして僕を愛してくれるのかと訊かれたとき)歌ったん?」への朝月さんの答えに霧が晴れるような思いだった。「歌は愛や喜びのために歌うもの、だからあのときベラドーヴァは歌った」解釈としては、“あなたは私がこの世でもっとも愛する歌のような存在、あなたに出逢った時からあなたが私の愛と喜び、だからあなたのために歌うの”みたいなことなのかな、と。

初めて聴いたその歌声があまりにも美しくてキャリエールはびっくりしたのだけれど、ベラドーヴァが今まで歌うことをしなかったのは、歌を仕事にしたくなかった、お金を稼ぐための手段にしたくなかったからなのでは。だから、オペラ座で歌手として歌うようになってからもベラドーヴァは、ただひとつの愛のために歌っていた。舞台で歌うすべての歌はキャリエールへ捧げられていた。それなのに、それなのに・・・キャリエールの裏切りは愛の裏切りと云うだけではなく、ベラドーヴァのいちばん大切で神聖な、信仰にも似たものを、ベラドーヴァ自身にも裏切らせてしまったのだ。

ベラドーヴァが口にした薬草は麻薬のようなものなのではと考えています。薬草を口にしたベラドーヴァはいっとき苦しみを忘れたかのように薄く微笑う。その瞳はうつろで、とても正気ではない。エリックが醜い傷を持って生まれてきてしまった原因はこの薬草にあるのだろうことは予想できます。

エリックが産まれたとき、ベラドーヴァはすでに正気を失っていたのだと思う。でも、エリックの顔が美しく見えたのも本当だと思う。信じた人に裏切られ、自分の信仰をも裏切ってしまったベラドーヴァはパリの街を彷徨いながらどんな醜いものを見てきたのだろう。きっと、ベラドーヴァは悪魔をみた。この世ならざる最も醜い悪魔を彼女は見たのだ。それは信仰を裏切った己の罪、苦悩が生んだ幻、麻薬が見せた悪夢だったのかもしれない。その悪魔達にくらべたら、エリックはどれだけ美しく母の目に映っただろう。そして、もうベラドーヴァの目にはエリック以外のものは映らない。ベラドーヴァの瞳のなかに在るのはエリックだけだった。ベラドーヴァのその狂気と、どれだけベラドーヴァが苦しんできたかを見せつけられたキャリエールは、そりゃ耐え難かっただろうよ。でも、彩風キャリエールはその苦悩をまるごとぜんぶ自分も受けているように思えて、自業自得・・・と思いつつも、キャリエールに対する哀れみをぬぐうことが出来ない・・・。八の字まゆげの呪いか・・・。

私の歌声が産んだ天使。そう歌う朝月ベラドーヴァ。もうベラドーヴァの人生の中に、キャリエールはいない。エリックはキャリエールとのあいだの子供ではない、自分の歌声が産んだ、奇跡の子供。もうすでにベラドーヴァの眼はキャリエールをみていない。完全なる拒絶、拒絶ですらない。消失。はじめから存在しなかった。このとき、エリックはキャリエールの子供ではなくなった。でも、キャリエールがエリックを見捨てなかったのは償いか、罪滅ぼしか。キャリエールは本当に心からエリックを愛してしまったのだと思う。自分の子供でなくても、この目の前に在る小さな命を、心から、生涯愛したいと、そう思った。彩風キャリエールから感じるこの愛は舞台の上からあふれて観客の心にも入ってきた。

永久輝キャリエールは己の罪を受入れ償いとしてベラドーヴァとエリックを見護っているというよりも、これでやっと三人で暮らせる、そう思っているようなそんなある意味、狂気じみた優しさを感じた。嘆きの中に微笑みが宿っているような。あんな状況のなかでも若かりし頃のキャリエールはなんだか幸せそうに見えた。ある意味、三人だけでの生活はキャリエールの望んだことだったのだから・・・。

キャリーエールによるエリック独占監禁説は、今回のファントムでは封印です。しかし永久輝キャリエールとなるとまた話は別だ。

彩海仔エリックの、母の愛を無条件に貪欲に享受していた子供らしさからの転落があまりにも彼にとって地獄だったのか、その叫びは子供のものというよりもまるで悪魔の悲鳴のように聴こえるときがあって、それがどれだけ残酷なことかを知る。

キャリエールがエリックに作った仮面第一号が何だか拘束具ぽくてちょっとびっくりしたのだけれど、あれからどれだけの仮面を作ってあのような美術品みたいに美しい仮面を作れるようにまでなったのか。ちょっと職人の域だよね。ちゃんとTPOにあった仮面も作って、エリックの顔にぴったりフィットするように・・・成長するごとに変わる仮面のサイズにしみじみとしたことだろう。キャリエールさん支配人クビになってもオペラ座の小道具さんとして就職すればよかったんじゃ。

朝月ベラドーヴァを見護るコロス久城さんの眼差しがとても優しくて、何者でもないはずなのに、彼は朝月ベラドーヴァの守護天使なのでは、と思ってしまう。わんにゃんパラダイスを思いだしながら・・・。

オペラ座の怪人伝説が生まれたというわけだ・・・!何か他人事っぽいよねこの言い方。生まれたというわけだじゃないだろうお前が生んだんだろう、て言いたい。

まるで地獄の底から生まれてくるようにセリ上ってくる望海エリック。でも、その魂はだれよりも白く無垢。地獄で産まれた白い魂。母とクリスティーヌのあいだで翻弄されるエリック。構図としては妻と実母に悩まされる夫であり息子と同じだな、と思いながら、そういう世界線もあったのかもしれないと云う、あまりのつらさにまた現実逃避してしまった。

顔のみえない彼等の正体は何。魍魎か、天使か、その彼らたちに弄ばれながら喘ぎ、マリアに助けを乞う望海さんの息づかいは聴こえないけれど、視えた。苦しくて残酷でつらいのに昂揚するこの気持ちは、何なのだろう。自分は悪魔なんじゃないかと思えてくる。

この白い仮面、みんな同じじゃなくて目の虚の大きさとかカタチとかそれぞれ違っていてこわい。望海さんのむかって左上の仮面が特にこわい。誰だ。

 

キャリエールの話を黙ってじっと聴いているクリスティーヌ。心がひろくて理解があるなと思う。「いや、何言ってんのあんたが悪いんやん・・・、」一言くらいそう言いたくなるよね。クリスティーヌはその話を聴いたそのときにキャリエールの深い愛を理解したのだろうか。いやほんとマジでクリスティーヌ無垢すぎない?天使。

「恐れはしません!私にはあの方のお心が解っていますから、」

思い上がったセリフだな、と思う。青い。でも、まぶしいくらい美しくて、妬ましいくらいまっすぐな心。キャリエールは彼女の言葉を信じる事は出来なかっただろう。でも、信じたい。もしかしたら、彼女なら・・・、一縷の希望を抱いたかもしれない。1%の希望を。

 

ショレは俗物でいけすかない男だけれど、真那ルドゥは出会いから彼に対して冷たい態度だった。幼馴染をクビにした男、てことで最初から悪印象だったんだろうな。

銀橋を渡りながら歌う彩凪シャンドン伯爵は、天に住む蚕からつむぎだした白銀の絹糸でアテーナが織った吹く風によって色を変える風の王に守護を受けたマントをひるがえし飛竜に乗って姫を救いに行く騎士のよう。(翔くんてギリシア神話が似合うと思う。)朝美シャンドン伯爵は大海原に決して沈まないと言われる船を漕ぎだして真の勇者の手でしかその鞘を抜くことが出来ない伝説の剣を手に、まだ見ぬ敵に挑む海賊王のよう。彩凪シャンドンの目的は姫を救うこと、朝美シャンドンの目的は敵を倒す事、この受取る微妙なニュアンスの違いが面白い。バックの映像はオペラ座の庭園?彼等には突きぬけるような青空や、どこまでも果てしなくひろがる海の映像が似合う。話が違ってしまう。

 

赤い衣裳にあわせて仮面も赤に揃えてくる完璧なコーディネート。エリックけっこうおしゃれだよね。己の醜さにコンプレックスを抱いている故の、美意識の高さなのかなと感じる。あの仮面、よくみるとクトゥルフみある。クトゥルフの語源はギリシア語で「地下」を意味する・・・。

カルロッタはとりあえず出ていく、て返事してから部屋を脱出して誰かを呼びに行けばよかったのに。気の強さと傲慢により相手を侮ってしまった。勇敢であり無謀なカルロッタの猪突猛進型、キライじゃない。仮面をかぶった怪人に花束を突きつけられたとき、高らかに笑うカルロッタの心情は次のうちどれか。①花束で私をどう殺すの?せいぜい棘で傷をつけるだけしか出来やしないじゃない、殺せやしないわ!②・・・あら、なあに、やっぱり私のファンだったの?いままでのは冗談よね?そうよね?!

 

カルロッタを殺したあとの、罪の意識のカケラもないエリックは恐ろしかった。罪を罪と知らない恐ろしさ。彼は人を殺すということ、人が死ぬということ、それがどんな意味を持っているのか真の意味では解っていない。悪い奴が死んでよかった!根底にあるのはそれだ。純粋にそう思っている。だから彼の魂は無垢なままでけっして穢れることはない。自分の人生以外に触れずに生きてきたエリック。他の誰かにも人生があると云うことをどれだけ理解していたか。それは誰も彼にそれらのことを教える者がいなかったことを意味する。キャリエールが教えるべきであったが、エリックがこのまま誰とも触れあうことなく生きてゆけばそれは必要のないことだった。キャリエールはそうやってその問題から逃げてきたのだろう。悪いのは誰か。しかし、死んだ人間にはそれは関係のないことだ。しかし彼に己が罪人であると云うことを知る残酷な日が来ることはなかった。それは幸せなことだったのか。それとも不幸なことであるのか。今となってはもう、解らない。

 

森の向うでお着替えをするエリック。凰華従者に手伝ってもらいながら脱ぎ脱ぎしたお洋服を受取るのは沙月従者さん。着替えを終えたエリックは、おかしくないかな、ヘンじゃないかな、て衣服を直したり、髪に触ったり、初めてのデートにそわそわ緊張する初恋BOY・・・、さっき人を殺してきた人とは思えないな・・・。

もう完全にいままで女の子と話したことないDt・・・初恋BOYが好きな女の子と二人きりになっちゃったテンションでみていてちょっとこっぱずかしくてカァーッてなる。クリスティーヌはエリックの物語を聴いてすっかり彼のことを理解したつもりになって母親気分かもしだしてるし、何かもう、中学生か君ら・・・ここはオペラ座学園。

ベッドを片付ける眞ノ宮従者くんが、よかったねエリックさん、みたいにニコッ、て顔してるの、みんなほんとうにエリックのことを想っているんだなあ。

僕の、領地をね!・・・小学生・・・、好きな女の子を秘密基地に案内してあげる小学生男子・・・エリックちゃん10歳・・・。

 

エリックと従者の彼等は造園技術まであるの?ほんとこの人たちのスペックどうなってるの。緑深き森に薔薇は咲き乱れ、小鳥が啼く。小さなテーブルと椅子が彼等を歓迎していた。バスケットのなかは肉や卵をサンドしたパンだろうか。あたたかく香るお茶もある。太陽の光があかるく降りそそぐ。しかし、ここは偽りの森。

小鳥の真似を全身で体現する縣従者くん。動きがセキレイぽいけど、見た目はカワセミっぽい。ここの小鳥の表現、今回はどんなかな?誰がやるのかな?て再演の度の楽しみのひとつ。

自分の大好きなウィリアム・ブレイクの詩をクリスティーヌにすすめるエリック。初デートで自分の推し作家の説明をイキナリしはじめてその本を読ませる、てもう完全にダメなヲタ男そのままだしもう喋り方もはふはふして挙動もおかしいしエリックちゃん落ち着いて。でもエリックちゃん、女の子どころか友達付合いすらしたことないほぼ210くんなんだからそんなのコミュ障でも仕方ないよね・・・。パパ、いくら何でもちょっと教育サボりすぎじゃない? 

母は僕を南の荒野に生んでくれた

僕は闇に生きるが魂はあかるい

素敵な詩。この先をクリスティーヌが読めなかったのは、エリックの物語を知ってしまったからだろう。

だが闇にいて光を失った

しかし、彼女は彼から光を失わせはしない、彼を闇から連れだす、そう思っていた。けれど、この一節を読むことを思わずためらってしまったのは少しの不安が心に在ったからだろう。 

人は愛や喜びのために歌うのであって何かを得るために歌ってはならない。朝月さんの解釈がアンサーになっているこのセリフ。母、ベラドーヴァの命はエリックのなかで生きているのだ、そう思えた。

その言葉を聴いたときの真彩クリスティーヌの反応が、最初のほうは、あ・・・、と云う顔をしていたのだけれど、後半はまた変わっていた。クリスティーヌの、真彩ちゃんの心のなかはどう変化していたのだろうか。

僕の顔は誰の目にも触れてはならない。醜い顔を蔑まれ気味悪がられたくない。この醜い顔は人を恐れさせる。恐がられたくない。この顔を見た者はみんな呪われてしまう。誰も呪いたくない。この醜い顔がある限り自分は幸せにはなれない。それはたとえ天使と一緒だとしても。でも、それでいい、幸せなんて求めていない。こうして天使と語りあえる一瞬があれば、それでいい、それ以上の何ものをも望んでなんかいない・・・。

わずかに手にした幸福の欠片を手に握りしめてそれにすがっていたエリックに、私はもっとあなたを幸せにしてあげる。その幸福の欠片以上のものをあなたにあげる。ななたのすべてを愛してあげる。私はあなたを恐れない。私はあなたを愛している。そう、語りかけるクリスティーヌ。それはひとつの偽りもない真実で、まっすぐで強く穢れなき無垢な瞳はエリックに希望をあたえた。

何度観てもこの真彩クリスティーヌは望海エリックを受入れてくれるはずと確信出来た。その歌声の美しさは心をとらえ、あやつってしまうほどの、まさに魔法の歌声だった。こんなにも「武器」だと思える歌はない。まさに、人を生かすことも死することもできる歌声。必殺技だ。

自分に語りかけるように歌うクリスティーヌの言葉にエリックの心の鍵がひとつ、ひとつ、はずれて、彼の魂をしばりつける荊の鎖がほどけてゆく。かたく閉ざされた扉の向こう、いちばん昏くて深い闇の底でうずくまっている傷ついたままの幼いエリックが顔をあげて、扉にそっと小さな手をかけるように、エリックの顔が、慄きと恐れに怯えてふるえながら、歓喜と、幸福が混ざりあい、その歌声から得られる魂の解放と云うエクスタシーがわずかにひらいた唇からこぼれ、うるんだ瞳には陶酔があった。そうして、扉を開けて、傷だらけの幼いエリックが顔をだした・・・。

今度こそ、僕を抱きしめてくれる人が扉をノックしてやってきた。僕は、この扉の外に出てもいいんだ。太陽のしたで生きてもいいんだ。天使が僕を愛してくれる!

クリスティーヌの前に現れたのは、愛してくれる母親が死んでから扉の奥深くに閉じこもり時がとまってしまったままの幼いエリック。望海エリックは、ほんとうに子供だった。母親に愛して欲しくて抱きしめて欲しくてたまらない子供。顔だけの演技ではない、魂からの芝居で、望海さんは子供になった。もう子供どころか幼児だった。成人した大人があの幼い子そのものの瞳をすることができるのか。それが芝居だと言われたら、役者は頭がおかしくならないんだろうかと思ってしまう。感情を剥きだしにした望海エリックの顔は酷く歪んだ魂がはりついた顔をしていた。もう、芝居と真実の境界がわからなくて、私は何を観ているのだろうと思った。

仮面の下の顔を見て、悲鳴をあげて逃げ去るクリスティーヌ。

それみたことか!このこわっぱが!!!(私のなかのマインドキャリエールの心の声)

自信満々にキラキラとした微笑をたたえながら、私には愛があります、と言い放ったクリスティーヌの滑稽さ。うすっぺらな母性が剥がれ落ちた瞬間。しかし、彼女を責めることはできない。クリスティーヌは生まれた赤子のごとく無垢だったのだ。その未熟な幼さは、赤子そのもの。恐れを隠し偽りの理解を示し微笑むことも出来ないほどの子供。限りなく純粋で偽りがないからこそ、彼女はエリックの顔を見て悲鳴をあげて、逃げたのだ。子供が何も考えずに「予期せぬもの」を見たらびっくりして泣き叫ぶように。彼女の残酷なまでの純粋さをみせつけられたような気がした。

恐れおののく、と云うよりも、わけがわからなくなって混乱するように悲鳴をあげて逃げる真彩クリスティーヌ。愛と恐れがぐちゃぐちゃになって真彩クリスティーヌは意識があるとも無いともわからないまま、走った。彼女のなかはもうただただ、真っ白と真っ白がまざりあってぐちゃぐちゃになっていたのだろう。

後ずさるクリスティーヌに伸ばしたその手を拒絶されたエリックは、その空虚な手で、偽りの森を飾る布を掴む。森の緑は剥がれ落ち、ただの布となった。エリックの手が掴んでいるのは魔法がとけた虚飾の森の欠片。エリックは布を抱きしめて、泣叫ぶ。この世の終わりにのこされた最期の人間が泣く声は、こんな声だろう、そう思った。泣いているのは子供のエリック。扉からわずかにさした光に手をのばした瞬間、突き落とされ奈落の底へと堕ちた幼いエリック。その泣き声は子供の泣き方で、だから成人した大人がこんな泣き方できるものなの。望海さん年齢詐称してない???フェアリィ以前に役者に年齢はない。もう彼等に年齢と云う概念は無駄だ。

布を抱いてうつ伏せになりうわーんわんとエリックが泣き叫ぶと虚飾の森が一瞬にして崩れ落ちる。すべて偽り。太陽など何処にもないのだと、エリックを闇にひきずりもどそうとする数多の黒い手が、足を、腕を掴む。でも、どこかでこうなることは解っていたんだというように微笑をうかべながら、銀橋を渡る望海エリックの歌は次第に強さをおびてくる。エリックの心は弱くはない。それは彼も知らずに彼を地上にひきとめる白い手があるからだ。エリックはその見えない何者かの手に導かれて歩いてゆく。けれど、銀橋を渡り終える頃はまた、うわーんうわん、えっ、えっ、て泣きだしてしまうの、抱きしめたい。

 

エリックの年齢設定は28歳くらいだけれど特に明確には設定していない、感じ方は自由だと中村先生の言にもあるように、いままで実年齢は40代くらいだけれど心は子供のままとまってしまった、そうイメージしていた。けれど、望海エリックは実年齢も心も幼く、そしてさらに幼児性も垣間見える、少年と青年のあわいくらいだと感じた。望海さんの演じるエリックははじめて観るエリックだった。衝撃だった。そして、私の『ファントム』と云う物語の解釈にドンピシャだった。

 

黄泉の国から戻ってきたクリスティーヌは鏡のなかに閉じこめられていた。そのカラクリをいとも簡単にやぶってしまったキャリエール。まあ支配人だから知っててもおかしくないか。とか思ってるの?他の誰も知らなかったのに?もうこの時点であやしさ満載なのに誰か気づこう?疑おう?

正気に戻ったクリスティーヌははっきりと、自分が何をしてしまったのかを思いだし、エリックの元へ戻ろうとする。そのときのクリスティーヌに恐れは感じられなかった。自分を心配そうに見つめるキャリエールを見て、自分の弱さに気づきそれを悔いていた。は!おとうさん!ごめんなさい!私は息子さんに何てことを・・・!!!みたいな。

カルロッタの死を知ったショレの今後がわりと本気で心配です。ショレ何も悪くない。本当にショレは妻を愛していたのに。彼はエリックを呪っていいしキャリエールを罵ってもいい。エリックの罪の爪痕がのこるのを見て胸が痛いよ。

鏡のなかから現れたエリックが音もなくスーッと部屋へ入って来て直角に曲がるその動作が狂気じみていて恐い。気配もなく警官の背後に近づき振り向いたらそこにいるとか、どんなホラーだ。それにしてもあいかわらずエリック強いな。警官に姿を見られた瞬間、赤い幕がばっ、と落ちる演出好き。おどろおどろしい血なまぐささを予感させる。

 

血痕の跡を靴の裏で消す彩風キャリエール。ここすごく好きで毎回オペラでロックオンだよ。パパの愛をぎゅ、て感じる。ここは私が見たから向うを探してくれ。その言葉を何で信じるかな。真那ルドゥさん、彩風キャリエールに何か弱みでも握られてるの?それとも好きなの?惚れた弱みなの???

 

「この前は悪かった、おこったりして。」観るたびにその言い方が違っていて、ちょっと拗ねたようにだったり、バツが悪そうにとか、優しげな様子で等々。おこったりして。て言い回しがまた子供っぽい。彩風キャリエールはまったく気にしていないふうに、「いいのさ。」エリックもキャリエールがそう言うことを解っていたみたいで、ああ、そうか、こんなやりとりはしょっちゅうで、エリックは甘えているんだなあ、と素直に接することの出来ない二人のコミュニケーションの仕方が見えた気がした。

自分の人生は音楽を耳にすることが出来た、クリスティーヌの声を聴けただけで意味があったと、そう言うエリックは自虐的だったり強がったりしているわけではなく、本当にそう思っているのだとわかった。「闇に生きるが魂はあかるい」まさに、エリックの魂は闇に堕ちてはいない。どこまでも前向きで、幸福を信じて疑わない、その強さは救いだ。キャリエールにとってもそれは救いだっただろう。幼少期にたっぷり愛情をそそいでくれたベラドーヴァさんに感謝。そして、キャリエールにも。

 

望海さんがインタビューで、「エリックは親の愛情をたっぷり受けた」と言っているのを聴いて、あの状況で愛情を受けていたと何のためらいもなく素で言えてしまう望海さん。母親はともかく、いや、母親でさえあの状況では傍から見てとてもそうとは思えない。でも、望海エリックはその愛情を疑うことなく受入れていたのだ。エリックが、と云うか望海さんが。もう、役と役者の境界線は何処にあるのか。観ている側も見失いそうになる。

 

自分から顔を見せてと言ってきたから見せたのに悲鳴をあげて逃げていったクリスティーヌに対して、「僕の方こそ彼女を恐がらせてしまって悪かったと思ってる。彼女のせいじゃない」ここでこれを本気で言えるエリックちゃん大天使?強がりとか嫌味とかじゃないんですよ本気でそう思ってるんですよ。この子は。もう何ていい子なの・・・キャリエールさんも愛おしさメーターぶっちぎっていいこいいこして抱きしめたくてたまらないMAXだと思うよ。

「彼女は今も君のことを愛しているよ、」「昔のことさ、それもほんの一瞬だけ」さみしそうに小さくなる声・・・でも、そんな瞬間なら生きるに値する、そう微笑むエリック。エリックは人生のなんたるかを知っている。人は、その一瞬の為に生きているのだ。永遠に消えない一瞬、それに出逢う為に人は生まれてきた。エリックのこのセリフが、エリックの人生を自ら全肯定している。救われた思いがした。そして、彼の人生が他の人より哀しいものなどではなく、まったくもって素晴らしいものであったのだと、そう言いたい。

銃弾を受け、おぼつかない足取りで歩くエリックに、キャリエールは何度も手を伸ばすけれど、触れることをためらうようにわずかにとどかない、その気持ちだけがちゅうぶらりんになったままの手がもどかしい。エリックも、触れられたらどうしていいかわからないとばかりに、一人で歩けると、その手を避けるのも、いまだ近づくことことの出来ない二人の距離が、もう、背中から押してやりたくなってしまう。

警官たちの足音に、どさくさにその距離をいっきに突破してエリックを抱きかかえて物陰に隠れるキャリエール。でも、その手は強く抱きしめると云うよりも包み込むようで、まるで壊れそうなはかない花を風から護っているよう。仮面の上から手で顔をおさえながら怯えるエリックは手負いの獣の子みたいで、・・・この構図、どこかで。あれだ、王蟲の子供を隠すナウシカだ。

 

もうなんか、よってたかってみんなでエリックをいじめているようにしかみえなくてなんかすごく胸が痛い。まあ実際、エリック悪いことしてるんですけどね。でも子供をいじめているような気持ちになってしまうんだよ。

 

もう、既に確信はしていたけれど、その真実に触れることができなくていままできてしまった。でも、二人は何かを予感してしまったのだろう。もう、時間があまりないことを。探るように、会話をする二人。両片想い同士が相手の心をさぐるような、たしかめるような会話を、息も出来ずに見護ってしまう。このときの二人を観ている我々はいったいどういう存在なんだろう。観客。なのか、はたして。

エリック、この、彩風さんの魂のそこからじわり、とわきあがってくるような、エリックの、エ。何十年も息子として呼びたかったその名をついに呼ぶことができる、大切に、大切に声にだした、何十年分もの愛を込めた、エ。

愛情が人のカタチを成して現れた、愛情さん。まさかの愛情の擬人化。望海さんのセンス天才的でかつヲタク的だと思う。彩風咲奈と云う名前の愛情さんの愛情が洪水のようにおしよせて、エリックを、舞台を、客席を呑みこんだ。彩風さんの愛情に溺れそうだった。

エリックはおそらく幼い頃からジェラルドは父親だと、何となく心のどこかでそう思っていたのだろう。けれど、それは口にだしてはいけないことだと、何となく、わかっていて、ジェラルドは父親ではないと思い込もうとしていた。そして、クリスティーヌには、彼は私のことを叔父か何かだと思っている、と言っていたけれどキャリエールもエリックは自分が父親であることに気づいているのではないか、そう思っていたのだろう。でもキャリエールはそれを確かめるのが恐ろしくて、エリックも、何も言ってくれないキャリエールにそれを確かめて拒絶されるのが恐くて、臆病な二人はお互い気づかないふりをして、自分の気持ちに蓋をしてきた。

でも、エリックはその目元を見つめては、彼は自分の父親だ、と、確信していた。お父さん、そう、心のなかで何回つぶやいただろう。でも、その呼びかけに答えが返ってこなかったら、もう、自分はジェラルドと一緒にいることが出来ない。気づかれないように、そっ、と、自分と似ているその目元をいつも見つめていた。目元、て云うか眉毛がうりふたごだよね。八の字眉毛はやはり遺伝なのだろうか。

あなたに呼びかけたい、お父さん、と。息子だと言ってくれた今なら呼んでも許されるだろうか、本当に呼んでもいいのだろうか。それでも怖くて、フルえる声で、お父さん、そう、声にした望海エリックの、瞳には涙がいっぱいたまっていて、唇は少し緊張していた。うまく笑えない、うまく泣くことも出来ない、怯えているのか、歓喜しているのか、そんな顔で、お父さん、と、声にだす望海エリックの心臓の音まで聴こえそうだった。そして、黙ったまま、手をひろげてエリックのすべてを受入れる彩風キャリエール。愛情の第二波。もう骨まで愛情に呑みこまれてしまう。

音楽でかたく結ばれてきた。キャリエールは息子としてだけではなく一人の音楽家としてもエリックを認めていたのだろう。音楽を愛する同志としてのつながりも強く感じていた。キャリエールのエリックと云う一人の人間に対する敬意がそこには見えた。そして、キャリエールにとってエリックこそが「私の音楽」であり、そして生きがいだったのだろう。

自分の顔を知ってしまった幼いエリックはショックからその前後の記憶があやふやで、しっかり憶えていないことも多かったのだろう。もうずっと以前より母親とジェラルドと三人で一緒にいたこと。ジェラルドが仮面を作ってくれたこと。はじめてジェラルドから譜面をもらった日のこと。何もかもが霧の彼方の出来事のようで、ぼんやりとした記憶しかなかった。それが、親子として会話をしてゆくうちに、その霧はうっすらと晴れてゆき、エリックは、いろいろなことを思いだしていった。あのわずかな時間は、二人にとって十何年分もの時間に等しいものだった。

でも、声はいいだろう?エリックのその問いに答えるキャリエールの、「とっても、いい・・・!」この、とっても、が、めちゃくちゃ超絶ウルトラスーパーファビュラス最高そして最高にいい!みたいな感じで、もうエリックのこと全肯定しているようで、とても好きだ、大好きだ。この言い方は彩風キャリエールのための、彩風キャリエールだからこその言い方だと、そう思った。

いつか僕を貴方の手で安らかに眠らせて欲しい。おまえの望みはきっと叶えよう。息子が実の父親に言うセリフだろうか。そしてこの答えが、父親のものだと云うのか。狂っている。もう、この二人の関係は常人には決して理解出来ない、理解してはならないものなのだろう。歪でありながら、何よりも強く、深い、二人の絆。

父親に手をのばすエリック。そして、今度こそ逃げないで、ためらうことなく、しっかりと息子を抱きしめるキャリエール。その腕は優しく、でも、もう二度と離すことはないくらいに強く、エリックの魂ごと抱きしめるキャリエール。我々も、抱かれた。確実に抱かれた。愛情の第三波は半径10kmを呑みこんだね。

 

彩風さんが、自分は望海さんのエリックのキャリエールで在りたい、そう言っていたのがとても印象的で、まさに、彩風キャリエールは望海エリックだけの唯一無二のキャリエールだった。

彩風さんてほんとうに望海さんのお父さんなんじゃないかな。

 

望海さんの瞳の煌めきは、よく、瞳のなかに光をあつめなさい、と言われるけれど、それよりも、星が、望海さんの瞳のなかからあふれているようだった。望海さんの身体のなかで生まれた星が瞳からキラキラあふれてくる。ファンタジィすぎるでしょうか。だって、望海さんの存在そのものがファンタジィなのですから。私の脳内もファンタジィです。

 

舌の根も乾かぬうちにクリスティーヌの姿を見たとたん、キャリエールの腕をふりきってクリスティーヌの元へ駆けだし、警官たちと乱闘になるエリック。今、お父さんとお話ししたこと忘れちゃったの?!3歳児か君の脳みそは。

でも、こう考えもした。もう、自分の時が長くないと知ったエリックは誰かにこの命を奪われるのなら、お父さんに奪って欲しい。でも、キャリエールは優しいから、ああは言ったけれどそんなこと出来ないだろう。だから、そうせざるを得ない状況をつくるために、エリックは狂乱を演じた。クリスティーヌのへの執着は本物だっただろう。けれど、そんな思いがあったことも可能性の一つとして考えられるのではないだろうか。そしてそれをキャリエールも解っていた。僕を撃ってくれ、そう言ったエリックの目は錯乱などしていない、静かな覚悟に満ちていた。

エリックは残酷だ。実の親に、実の息子を撃てと、言う。なんのくもりもない無垢な瞳で。それがどれほどのことか、エリックには解らない。そして、エリックは無自覚のまま、キャリエールのなかに決して失えることのない疵をつけた。キャリエールは一生、その疵の痛みを抱えて生きてゆく。エリックは誰よりも強く、キャリエールのなかで生きつづけることになるのだ。愛してる人に自分を殺させる、てもう一生消えない疵跡をのこすようなものだよね。それを無自覚でやってしまうエリックほんと恐い。子供の邪気たっぷりの無邪気さよ。

撃ってくれ、父さん。エリックがキャリエールを皆の前で父と呼ぶ演出は今回が初めて。私の父子伝説ここに極まれり。私はこの一言を待っていたのかもしれない。

隠すことなく、あたりまえのふつうの父子として在りたかった。皆に、僕のお父さんです、そう言いたかった。今回の『ファントム』は父子の関係性がより強く描かかれていた。その物語の各所にちりばめられた父子の関係性を匂わせる諸々の演出の果てに、この、皆にエリックがジェラルドの息子であることを明かす。と云う演出は、とても、気持ちが楽になるような、重いどろりとしたものが透明な風になってゆくような、そんな心持がした。

じゃっかん、キャリエールさんの日々の態度があからさますぎて、「知ってた、」て雰囲気になるのではと懸念されたけれど、みんなちゃんと驚いてた。

真那ルドゥさん超かわいそう。何で俺に相談してくれなかったんだ、そう憤りながらも警察である自分に迷惑はかけられないとキェリエールは思ったのであろうことは想像がつく。でも、でも・・・、生け捕りにしろとか言っちゃったじゃないか!俺は何て酷いことをー!とか超悩みそう。真那ルドゥ警部真面目で優しいから・・・。 

 

銃を構えて、エリックに銃口を向けたまま煩悶するキャリエール。その背中。男役は背中で語る。でも、こんなつらくて哀しい背中、観たことない。彩風さんはその背中で、何もかもを語っていた。そして、キャリエールが撃ったのは、自分の心臓だったのか。

撃たれた瞬間、エリックの身体を捕えていた鎖は解かれ、エリックの肉体は解放された。それは彼の魂を縛りつけていたすべてのものからの解放でもあった。キャリエールの放った銃弾で心臓を貫かれた瞬間、エリックは彼をしばりつけ、苦しめていたすべてから解放されたのだ。その瞬間、オーケストラが奏でる音楽は、まるで祝祭のファンファーレのよう。音楽のなかに光がみえた。エリックに、おつかれさま、そう言って、導いてくれる第七の天使のラッパが吹き鳴らす音楽はきっとこんな音楽なのだろう。

その刹那の望海エリックの聖らかな顔。幸福そのものの微笑み。やっと楽になれた、そう言って眠りにつこうとまどろむような顔は、彩風キャリエールを見て、微笑する。ありがとう、と。

石になって、そして粉々に砕かれてしまったような彩風キャリエールの背中。エリックの為に生きてきた人生のすべてがその背中に在った。黙してなお饒舌な背中。これが男役の背中か。背中を見ているのに、胸のなかがまる見えな彩風キャリエールに魂が引っ張られてしまい、この背中から目が離せなくなる。 

エリックに駆けよるクリスティーヌ。もう彼女は何も恐れてはいない。そして、もう何も知らなかった頃の少女ではない。クリスティーヌの顔は、まさに、聖なる母そのものだった。仮面に触れようとするクリスティーヌに、いやだ、やめて、と顔を歪めて懇願するエリック。クリスティーヌはそっと、仮面を外す。クリスティーヌはまっすぐに、エリックの顔を見つめる。そして、愛おしそうに、その顔に、口吻けた。母ではなく、初めて恋したクリスティーヌのキスを受けて、エリックは、微笑みながら、クリスティーヌ、そう彼女の名前を呼んだ。この一瞬のために、エリックは生まれた。この一瞬をむかえるために出逢ったすべての人々と、歩んできた人生すべてのために、エリックは生まれたのだ。神に召されるとき、エリックはきっとそのことに気づいただろう。

クリスティーヌは心のなかで、何かを失い、そして何かが生まれた。これはクリスティーヌの成長の物語でもある。生まれたばかりの天使が、哀しみを知って、愛されること、愛すること、痛みを知り、そうして生きることが何かを理解した。エリックがつけた小さな甘い疵跡は、クリスティーヌのなかで永遠に、脈をうちつづけるだろう。それはクリスティーヌが真に生まれた心臓の鼓動でもある。

そして、シャンドン伯爵もまた、美しく光あふれる道しかか歩んできたことのない彼が生まれてはじめてこの世界の醜さに触れ、ほんとうに美しいものを知り、そして挫折を知った。あきらかに、彼は負けたと、そう感じた。何に。エリックに?クリスティーヌに?何にだかわからない、でも、彼が今目の前でみたものは彼が今まで出会ってきた何よりも強く、哀しく美しいものだった。シャンドン伯爵の人生に初めてさした影がこれからの彼の人生にどう影響してゆくのか解らない。けれど確実に、彼も、変わるだろう。どう変わるかは彼次第。

 

今までどこにいたんだ従者たち。もしかして、こうなることは承知していたのだろうか。エリックからそう、言われていたの。彼等はすべてを受入れていたのか。それか昼寝でもしてたか。キャリエールを見る沙月従者の顔は、その心を自分のものであるかのように受けて、苦痛に満ちていた。彼女はこれからどうなるのだろう、従者たちは。それはあまりにも切なくて、つい物語の中で幸せにしてあげたくなってしまうけどさすがに鬼のように長くなるのでまたの機会に。

 

ゆっくりと横たわるエリックに近づくキャリエール。キャリエールの旅は終ったのだ。これはキャリエールの人生の旅の物語でもある。彼の身体と魂をつなぎとめていた枷は失くなり、彼は自由になった。そして、生きる意味も失くなった。彼が生きていかなければならない理由はもう、失い。エリックの傍らに膝をつき、その亡骸を見つめながら、微笑みをたたえるキャリエール。そして共に、セリ下がってゆく。この演出も今回が初めて。

何が起こったのか最初わからなかった。これはどう云うことだろう。動揺して、頭のなかが真っ白になった。望海エリックと共に地獄に堕ちてゆくように奈落へとセリ下がる彩風キャリエール。え、無理心中?なんかキャリエールもこのまま死んじゃいそうじゃない?いや、ちょっとそんな無理心中とかやめて下さいしんどすぎてキャリエリ派閥息も絶え絶えです。どう解釈したらよいのか中村先生に詰め寄りたい。

彩風さんの愛情の波動が地球をも呑みこむ勢いで、楽が近づくいてゆくにつれその範囲はひろがり、もう彩風キャリエールは宇宙も抱ける。この彩風キャリエールパパの眼差しと微笑に、毎日劇場が海に沈むくらい泣いた。

 

背景の画像に映る、水面に一片一片、散りゆく白い花の花弁はエリックの散ってしまった魂のよう。

虚ろに歩く、クリスティーヌ。その瞳にあの春のようなかがやきは失く、虚無だけがみえた。

クリスティーヌがエリックに抱く感情は恋ではなく母の愛情に似たものだと思っていた。エリックがクリスティーヌの恋の対象に成り得るとは思えなかったからだ。真彩クリスティーヌもエリックに恋をしてはいなかっただろう。愛していた、でも、それは恋じゃない。でも、エリックのことを想いながら、もう一度あなたにめぐり会いたいの、そう歌うクリスティーヌの歌声には、生まれたばかりの恋の熱情が、宿っていた。はじめて、『ファントム』、これは恋の物語でもあったのだと、そう思った。

エリックが弾いていたピアノの鍵盤にエリックの指の記憶をなぞるように指をおくクリスティーヌ。その音にエリックの声を想いながら、クリスティーヌはエリックの面影をそっと閉じた瞼のうらに描いた。美しい声で自分を見つめながら歌うエリックは誰よりも美しく、愛おしく、恋しい人だった。蝋燭の灯が失えるまで、クリスティーヌはエリックの歌声につつまれて、幸福のなかに在た。

 

 

終。

 

半分以上ただの二次創作になってしまいました。+αとフィナーレの感想文は次回。